ちょっとわかりにくいかもしれませんが、AVがきわめて大きいことを考えると、1/AVはほとんどゼロになります。また、R2/R1≪AVならば1/AVもほとんどゼロになるので、(4)式の分母はほとんど1に近くなります。そのため、出力電圧は次式であらわされるようになります。
Vo=-(R2/R1)Vi+(R1+R2)V+/R1 ・・・(5)
となります。特に、オペアンプの+入力端子がグラウンドに接続されていて、V+=0ならば、
Vo=-(R2/R1)Vi ・・・(6)
となって、この回路は入力電圧を-R2/R1倍する反転増幅器として働くことがわかります。増幅度を抵抗の比で設定できる、これがオペアンプ回路でもっとも基本になる反転増幅器としての動作です。
ところで、(1)式からV+-V-=Vo/AVであるので、V+-V-は出力電圧Voを裸利得AVで割ったものになります。Voはせいぜい10数Vであるのに対し、裸利得は10000くらいはありますから、V+-V-がほとんどゼロ、つまりV+とV-には電位差がほとんど生じない、これをバーチャルショートといい、オペアンプ回路の重要な性質のひとつです。
◆電流の関係で解く
上で述べた電圧の関係での解き方は面倒ですが、どんな場合でも厳密に解くことができます。ただ、式の計算が非常に面倒なのでいつも使うには実用的ではありません。そのためバーチャルショートと入力端子に電流が流れないことを仮定することで、回路に流れる電流に着目し、とても簡単にオペアンプ回路の動作を計算することができます。ただしこれはあくまでも近似的解法ですので、とても厳密な精度を要求する場合や、オペアンプの性能の限界に迫るような使い方をするときには誤差を生じてしまいます。その点には十分ご注意ください。
まず、+入力端子がアースされているV+=0の回路で考えます。バーチャルショートを仮定すると、
V-=0
が成り立ちます。回路の入力とオペアンプの-入力端子の間には抵抗R1が挟まれているので、この抵抗R1には必ず
IR1(Vi-V-)/R1
の電流がながれます。
この電流はどこへいくのでしょうか。V-端子には電流は流れ込むことはできません。しかたがないので電流は抵抗R2を通じてオペアンプの出力端子に流れ込みます。オペアンプの出力端子はすこしの電流なら吸い込んだり吐き出したりしてくれるからです。抵抗を電流が流れると必ず電圧降下という現象を起こします。電流の下流のほう上流よりも必ず電圧が低くなるのです。その電圧降下によって、オペアンプの出力端子の電圧は0VであるV-端子の電圧よりもR2*IR1だけ低くなります。そのため、出力端子の電圧は
Vo=-(R2/R1)Vi
となります。結局、電圧増幅度は入力抵抗と帰還抵抗の比で決まります。
この話を聞くと「なんか変だな」と思った方もおられるかと思います。第一にオペアンプが増幅しているという話が全然でてきませんよね。なんか騙されたような説明です。
こたえは、実は最初に仮定したバーチャルショートの中にオペアンプが増幅しているという仮定が含まれているので、ちゃんとオペアンプは動作しています。バーチャルショートはオペアンプがちゃんと電圧増幅してくれた賜物なのです。
このように電流の関係でオペアンプ回路を解くと、電流や抵抗の関係だけから回路の動作が求まってしまうので不思議な感じがしますが、オペアンプが正しく動作しているならばという大胆な仮定があらかじめ含まれているので当然のことなのです。
では、オペアンプが正しく動作していないような状況というのはどんな場合でしょうか。それは、たとえば次のような状況です。
- 抵抗の比で設定した増幅度が、オペアンプの裸利得に近いかあるいは越えている場合
- 出力電圧がオペアンプの出せる最大の電圧範囲を超えている場合
これらの場合はオペアンプが正しく動作しないので、バーチャルショートが成立しませんから、上で述べたような簡単な電流計算で回路の動作を求めることはできません。そのような状況では最初に述べた電圧の関係式から頑張って解くしかありません。
この回路の帰還抵抗に抵抗だけでなく、コンデンサやダイオード、トランジスタを入れてみることでいろいろと回路が発展してきます。
◆入力インピーダンスを求める
オペアンプ自体はとても高い入力インピーダンスを持っています。しかし、反転増幅器に使った場合はオペアンプの-入力端子がバーチャルショートでV+の電圧に固定されているため、入力端子からは入力抵抗を介して電流が流れ込んでしまうからです。
そのため、入力インピーダンスは入力抵抗R1の値になってしまいます。
◆反転増幅器の限界を知る
反転増幅器は簡単な回路で、抵抗の比で増幅度を設定できるのでとても便利です。実際にもとても多くの場所で使われています。普通の用途では何も問題なく使えるのですが、ちょっとした欠点もあります。
- かならず、入力と出力のプラスマイナスが逆になる。
- 抵抗比で設定できる増幅度には上限がある
- 入力インピーダンスはR1
- 周波数特性があまりよくない
などです。増幅度の最大の上限はもちろん裸利得で決まってくるのですが、実際にはもっと下の値になります。その理由は
- 裸利得は周波数が増加すると下がる
- 入力抵抗や帰還抵抗にあまり低い抵抗や高い抵抗は使えない
からです。オペアンプ回路には1kΩから100kΩまでの抵抗が良く使われます。増幅度は入力抵抗と帰還抵抗の比なので、入力抵抗を低くするか帰還抵抗を高くすれば増幅度を高くすることができます。でも回路の入力インピーダンスは入力抵抗の値そのものなので、あまり低くはできません(電圧増幅器は入力インピーダンスが高い方が嬉しい)。
帰還抵抗もあまり高くはできません。それは、ちゃんとした帰還電流を流してやらなければいけないことと、高抵抗は大きなノイズを発生させるからです。このノイズは熱雑音といって、抵抗の大きさの平方根にも比例します。これは自然現象なので取り去ることはできません。実際の設計ではノイズを何μV以下に押さえたいとかいう要望によって自然と回路に使える最大の抵抗の値がきまってくるわけです。
熱雑音の問題だけでなく、あまり高い抵抗を使うと回路に流れる電流が少なくなるので外来ノイズの影響を受けやすくなったり、オペアンプ自体の出すバイアス電流が無視できなくなったりします。そのため、オペアンプ回路では高くても数100kΩ、標準では10kΩの抵抗が良く使われます。とくになぜか10kΩの抵抗はとても良く使われます。
また、オペアンプは内部に数個から数10個のトランジスタが使われている巨大な回路です。いっぱい部品があると、自然と対応できる周波数が低くなってしまいます。だからあまり高速な動作はできず、周波数特性はあまり良くないのが一般的です。せいぜいオーディオ帯域で使います。
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この回路を発展させた回路の例として