信号を伝達するときに、最大値と最小値の範囲内で伝えたいことがあります。この回路は設定した最大最小値を超えた入力信号がくるとクリップして、超えない信号を出力してくれます。
リミッタ回路というのは、入力電圧が設定された範囲内にあるときには、入力電圧に対して線形な普通の出力をします。しかし、入力電圧が設定された範囲を超えたときは、出力がその設定値以上にならないように抑制します。
よく見かけるこの回路もリミッタ回路の一種です。この回路はICの入力保護によく用いられていて、入力電圧がダイオードの順方向電圧降下Vf以上になるとダイオードが導通するので、両端の電圧はVf以上にはなりません。単純な回路ですがとてもよく使われています。
電圧の最大値を抑制するリミッタ回路はダイオード一本で作ることができます。この回路では入力電圧が、Vset+Vfを超えると、ダイオードがONして、入力信号が電圧源に吸い込まれてしまいますので、入力信号はVset+Vfを超えることはできません。
ツェナーダイオードを使う方法もあります。ツェナーダイオードを使ったリミッタ回路ではリミットする電圧をツェナー電圧に頼っています。また、負の電圧が加わったときもツェナーダイオードは導通しますので、厄介です。
上のリミッタ回路の最初の大きな欠点は、出力インピーダンスが抵抗Rの値になってしまうことです。この抵抗の目的は電流制限です。ダイオードがONした時に、過大な電流を信号源から取り出すと信号源が壊れるかもしれませんし、設定した直流電圧源を壊すかもしれません。そのために入れてある抵抗なので、あまり低くはできません。
ですが、高くしすぎると出力インピーダンスも高くなるので不便です。そのため、オペアンプによるバッファを入れるとよいでしょう。
これでも、順方向電圧降下による不安定さは解決していません。
オペアンプで作る理想ダイオードをリミッタ回路に加えてみましょう。R1=R2=R3=10kΩとし、ダイオードは1S1588とします。
基準電圧源は、ツェナーダイオードで作ってもよいし、基準電圧源ICを使ってもよいでしょう。回路の入出力電圧をVin、Voutとし、オペアンプの出力電圧をVo、オペアンプの入力電圧をそれぞれV+、V-とします。
まず、オペアンプの入力端子にはほとんど電流がながれないので、V-=Vout、V+=Vsetが成り立っています。
いま、何らかの原因で入力電圧が下がって、V-≒Vout<V+になったとします。すると、V-<V+なので、オペアンプの出力は正になろうとます。そうなると、ダイオードは導通して、オペアンプの出力電圧Voと回路の出力電圧Voutの関係は
逆に、何らかの原因で入力電圧があがって、V-≒Vout>V+になったとします。すると、V->V+なので、オペアンプの出力は負になろうとます。そうなると、ダイオードは導通しないので、回路の出力電圧Voutは回路の入力電圧Vinになります。このときは入力電圧は出力電圧と同じになります。
結局、VoutはV+を下回ることはできないのです。ゆえに、この回路は下限リミット回路として働きます。
ダイオードの向きを変えれば、上限リミット回路になります。上限リミット回路と下限リミット回路を同時に使えば上下限リミット回路を作ることができます。
これら、理想ダイオードを使った回路ではリミッタが動作しているときには、出力電流はオペアンプから供給されます。回路の動作をイメージ的に書くと、オペアンプが供給する電流と回路の入力電流が引っ張り合って、強い方が出力されるわけです。どんな状態になろうともオペアンプや入力も壊れないように、回路の入力側を抵抗R1で弱らせておく必要があります。
抵抗R2とR3は、オペアンプの保護用です。いくつかのオペアンプは入力に電圧にあまり大きな電位差を加えないほうがよいのです。普通のオペアンプ回路ではバーチャルショートが成り立っているので電位差はほとんどないのですが、帰還部にダイオードを入れた回路ではバーチャルショートが成り立たないことがあります。
オペアンプの入力は電流はほとんど流れないはずなのですが、電位差が大きくなると突然流れたりします。OP07などでは入力にダイオードでできた保護回路がはいっているので電流が流れてしまいます。
そういう理由で、抵抗で保護しておいた方がよいでしょう。そのために抵抗R2とR3をいれてあります。
この回路では、帰還部分にツェナーを入れて見ます。ツェナーが互いに逆向きに接続されているので、両端の電圧がツェナー電圧Vzと順方向電圧降下Vfを超えるとツェナーが導通します。ツェナーが導通しない状態では、帰還抵抗はR2ですが、ツェナーが導通すると帰還抵抗がほとんど0になってしまいます。こうして出力がある電圧以上の振幅になるとリミッタが動作します。