作動増幅回路1
トランジスタを使った作動増幅回路です。二つの入力電圧の差を増幅して出力します。
これはすべてのオペアンプの基本となりますし、超高速のディジタルロジック(ECL)を理解する上でも重要です。だからしっかり理解しておきましょう。
説明
二つのトランジスタのエミッタが結合されていることに注意してください。エミッタからは定電流回路がGNDへ向けてつながっています。(2電源で使うときは負電源へつなぐ)。そのため、二つのトランジスタに流すことができる電流の和は決められてしまっています。
I = I1 + I2
もし、この回路のトランジスタが一個で、片側しかなかったらどうでしょう。普通のエミッタ接地増幅回路によく似ていますよね。動作も片側だけ見たときには、普通のエミッタ接地増幅回路とほぼ同等です。でも、両方のトランジスタに流すことができる電流は一定で、定電流回路に勝手に定められた値です。一方のトランジスタに多く電流を流すと他方が減ってしまいます。「滝に打たれるシーソー」のような、綱引きのようなイメージです。
二つのトランジスタは綱引きをしているので、同時に電流は増減できません。何らかの原因で、2つのトランジスタに流れる電流に差が生じた場合、その差が抵抗の電圧降下として取り出されます。
ところで、トランジスタのベースに流れる電流はベース・エミッタ間電圧VBEの指数関数に比例します。コレクタ電流はベース電流に比例しますので、結局、コレクタ電流はベース・エミッタ間電圧VBEの増加とともに単調に増加します。
VBEは一定じゃないの?と思う方がいるかもしれません。VBEはほぼ0.65Vですが、加える電圧によってわずかに変化します。指数関数の0.65Vというところの傾きが人間にとって都合がよいので、みんなこのあたりでトランジスタを動作させるのです。
結局、二つのトランジスタのVBEに差があると、それがコレクタ電流の差となって、回路の出力になります。
注意点
二つのトランジスタのVBEの差を出力として取り出すのですが、VBEに差を生じさせる要因は入力電圧の変化だけではありません。温度ドリフトといって、半導体のPN接合は約-2mV/℃の温度特性をもっています。そのため、二つのトランジスタの温度が違うとVBEに差が生じてしまい、入力電圧が加わったのと同じように見えてしまいます。
これは大変厄介な問題です。同じ型番のトランジスタでも個体差はどうしてもありますので、2SC1815などを使って作動増幅器を作るときには二つのトランジスタをぴったり張り合わせて、温度を一定にしなければなりません。また、選別を行い特性の似通ったものを選ぶ必要もあるかもしれません。
こんなとき便利なのが、2SA1349や2SC3381のようなペアトランジスタです。二つのトランジスタが一つのシリコーンの上に作られているので、特性もほとんど同じで温度結合もばっちりです。
ワンポイント
オペアンプとして使うときには、定電流源にカレントミラーが良く使われます。
作動増幅器単体で使う際には、増幅度を決めたいときがあります。こんなときはエミッタに抵抗をいれるとよいです。片側の電圧増幅率は
A = 0.5*R1/R3
と、エミッタ増幅回路の半分になります。半分になるのは、この回路が差を増幅する回路からです。
部品の省略
- この回路は二つの入力と二つの出力があります。差動で入力して差動で出力します。でも片側の出力しか必要なければ、コレクタ抵抗は削除してしまっても構いません。なぜなら、この回路はエミッタ接地として働いていますが、エミッタの交流的なインピーダンスは(接地点から)ゼロなので、コレクタ抵抗は何でもよいのです。エミッタ抵抗を入れなければ、増幅率はトランジスタの限界です。
- もし、入力電圧の電位差がとても小さく、エミッタの電位があまり変動しないのであれば、定電流回路は数十キロ程度の抵抗で置き換えられます。ただし、性能は落ちます。
さらなる発展のために・・
- 差動増幅器は個々のトランジスタはエミッタ接地回路なので、カスコード回路に発展できます。すると、周波数特性はぐっと伸びます。IC化されたオペアンプで、差動入力の上に意味不明な回路が乗っていた場合、カスコード化のための回路であることが良くあります。
- 負荷を抵抗の代わりに、カレントミラーを使うと本格的です。IC化されたオペアンプはほとんどがカレントミラーになっています。ただ、一見してカレントミラーには見えないかもしれませんが、良く見るとカレントミラーだったということはよくあります。
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